成績不振の社員に対する対処方法
事例
我が社は、健康器具販売を業とする会社であり、営業部には勤務態度は良好で真面目に働いている社員Aがいます。
営業部では月10件の成約を目標としていますが、Aは、どう頑張っても月5件の成約を取るのが精一杯な状態であり、このような成績不振がかれこれ数年続いています。
我が社も、中小企業であるため、そのような社員を雇い続けるにも限界があります。
そこで、このような社員を解雇することはできるのでしょうか?
対処法
以前「解雇と就業規則について」という記事で、解雇の種類と解雇の要件について、検討しました。
簡単に整理しますと、「解雇」には、従業員の企業秩序違反行為に対する制裁罰としての懲戒解雇、病気や労務の適性を欠く場合になされる普通解雇、会社の経営を維持するため人員削減目的でなされる整理解雇があります。
そして、懲戒解雇をするためには、就業規則に根拠がなければなりません。これに対して、普通解雇や整理解雇をするためには、就業規則に根拠がなくとも自由にできますが、解雇権濫用を防止するため、客観的合理的理由と社会的相当性を要求しています。
さて、事例における解雇は、成績不振という労務の適性を欠くことを理由としてなされる解雇であるため、「普通解雇」に当たります。そして、普通解雇が認められるためには、前述の通り、客観的合理的理由と社会的相当性が必要となります。
ただ問題は、この二つの要件については、解雇する会社側が立証しなければならないため、解雇のハードルが高くなるということです。
そこで、会社側としてはすぐに解雇という手段を検討するのではなく、まず解雇以外のより柔軟な対処を検討すべきです。
では、いかなる対処方法が考えられるでしょうか?
成績不振社員に対する対処方法としては、①成績不良や能力不足の記録と注意勧告、②改善のための教育指導・具体的な数値目標の設定、③配置転換・減俸など具体的な施策、④退職勧告、⑤解雇という方法があります。
まず、会社側としては、具体的にその社員の成績不良や能力不足の原因を追究し、その改善方法を探ることとなります。また、それと同時に、最終的に解雇をすることを想定して、その社員が成績不振で会社業務に重大な支障や損失を与えているとの「客観的合理的理由」及び解雇することが「社会的相当」であることを根拠づける証拠を集めることとなります。
その作業が、①から③の作業です。
そして、それでも改善が見られない場合、最終的な手段として④又は⑤という手段を選択することとなるわけです。
具体的には、以下の通りです。
①について
「成績不良や能力不足の記録」は、具体的には、「注意指導書」という書面で成績不良や能力不足を指摘し、「指導記録票」という書面にその事実を記録しておくことです。
「いつ」「どこで」「どのような業務において」「どのような」「どの程度の」ミスをしたのかを逐一記録して、その社員の状況を正確に把握することが大切です。
②について
次に、①で得られた記録をもとに、その社員の改善を目標とした具体的な業務目標を設定します。
ここで、その社員の仕事上の癖や問題点を正確に把握して改善を目指せば、この時点で十分な改善が期待できます。具体的には、いつまでにいくつ契約を成立させる、能力が高い上司と一緒に業務を行い仕事のコツを伝授してもらうなどがあります。このような改善プログラムの中で、仕事に対するコツを得て、奮起する社員がいるというケースもあるようです。
③について
次に、②による改善プログラムが功を奏しなかった場合、部署の転換や一時的な減俸を行って、改善を試みることになります。
ここで、改善が見込めれば、その部署で働いてもらい、その後元の部署に戻すという柔軟な対応も期待できます。
もっとも、ここまでの段階になると、社員側が改善は見込めないとして自主退職する場合もあるようです。
④及び⑤について
②及び③の改善プログラムによっても全く改善が見られない場合には、会社側としては、退職勧告や最悪の場合は解雇を検討することとなります。
しかし、解雇に関しては、その社員を解雇すべき「客観的合理的理由」と「社会的相当性」が必要であり、その立証責任も会社側にあるという非常にハードルの高いものであり、認められることは容易ではないのです。また一方で、Aのような真面目な社員は、成績改善が臨めれば会社にとって利益をもたらす人材であるため、そのような人材を排除してしまうことは、会社側にとって大きな損失となってしまいます。
したがって、会社側としては、可能な限り①から③の手段によってその社員の改善を目指すべきであり、その社員を解雇しなければ会社に甚大な損害が生じてしまうなどといった特別な事情がない限り、解雇という手段を取るべきではありません。
総括
成績不振の社員は、世間一般で「問題社員」と呼ばれることが多いですが、無断欠勤が多い社員や勤務態度が悪い社員といった自己に責任のある社員とは全く異なります。むしろ、「頑張っているのに結果が出ない」「頑張っているのにどうしたらいいか分からない」といった努力家が多いようにも思えます。
解雇は、前述の通り、ハードルが高いため、会社に対して、大きなリスクと負担が生じます。
また、会社にとって人材は会社の財産であり、可能な限り社員の改善を求めて仕事を続けさせることが今後その社員の成長を手助けることとなり、会社にとっても利益となると言えます。
したがって、改善プログラムの段階で、その社員の改善ができるよう柔軟な対応をすることが重要であると言えるでしょう。
なお、成績不振の社員に対する対処方法の具体策・運用など、ご不明な点がございましたら、弊所までお気軽にご相談ください。