不当労働行為とは
ーーー本記事のポイントーーー
①不当労働行為とは
②不利益取り扱い
③団体交渉拒否
④支配介入
⑤黄犬契約
⑥労働委員会への救済申立てを理由とする不利益取扱い
⑦不当労働行為を行った場合のペナルティ
⑧黄犬契約
⑨労働委員会への救済申立てを理由とする不利益取扱い
⑩不当労働行為を行った場合のペナルティ
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企業が労働組合に対応する場合、「不当労働行為」をしてしまわないように注意しなければなりません。
不当労働行為を行うと、労働委員会に申し立てられて救済命令がくだされるなど、ペナルティを受ける可能性もあります。
最終的に刑事罰が科されるケースもあるので、そのようなことにならないよう正しい知識をもって対応しましょう。
今回は不当労働行為に該当するケースや違反した場合のペナルティについて解説します。
1.不当労働行為とは
不当労働行為とは、雇用者が労働者による正当な労働組合活動に介入したり妨害したりする行為をいいます。
労働者には団結して労働組合を組織し、企業へ対抗する権利が認められています。
具体的には「団結権」「団体行動権」「団体交渉権」の「労働3権」が認められています。
それにもかかわらず、企業が不当に労働組合活動を不当に圧迫する行為をすると、労働者の権利が守られません。
そこで労働組合活動への介入や妨害行為は労働組合法によって禁止されます。
企業側が不当労働行為をすると、ペナルティも課されるので違反行為をしないよう注意しましょう。
以下で具体的にどういった行為が不当労働行為になるのか、ご説明します。
2.不利益取り扱い
不利益取り扱いとは、労働者が労働組合に加入したり労働組合活動を行ったりしたことを理由に降格や解雇などの不利益な取り扱いをする行為です。
ただし労働組合を理由にした解雇でなくても、労働者側が「労働組合活動を理由とした不利益取り扱いで違法」と主張してくるケースが少なくありません。そんなときには労働組合活動以外の解雇理由を明らかにして争うべきです。
不利益取り扱いの具体例
l 組合活動に熱心な従業員を降格させた、遠隔地に単身赴任させた
l ユニオンに加入したために解雇した
3.団体交渉拒否
団体交渉拒否とは、労働者が労働組合を通じて団体交渉を申し入れてきたときに企業側が正当な理由なく拒否することです。ユニオンや自社の労働組合から団体交渉を申し入れられたときには、基本的に拒否してはなりません。
交渉に応じたとしても「誠実な態度」でなければ団体交渉拒否とみなされる可能性があるので、注意が必要です。
団体交渉拒否の具体例
l 従業員が労働組合を通じて残業代請求に関する団体交渉を申し入れられたとき、正当な理由なく拒否した
l 交渉には応じるが、企業側しか持っていない必要な資料を開示しない
l 合理的な理由なく開催場所にこだわり、団体交渉を拒否した
l 文書や電話でしか回答に応じない
正当な理由がある場合とは
ただし正当な労働協議でない場合には拒否できるケースもあります。
たとえば組合員が暴力を振るった場合やすでに裁判で決まった事項について蒸し返しで団体交渉を申し入れられた場合などです。
また労働組合側から団体交渉の日程を指示されたとき、調整のための変更要請をしてもかまいません。
4,支配介入
支配介入は、企業側が労働組合の運営に介入したり支配したりする行為です。
会社側が支配介入すると労働組合活動が自由にできなくなり、結果的に労働者の権利が保護されません。
労働組合に参加する意思があるかどうか、アンケート調査を行っただけでも支配介入とみなされる可能性があるので、慎重な対応が必要です。
組合員資格への介入
企業側が組合員資格へ介入した場合にも不当労働行為となります。
従業員にはさまざまな種類の人があり、どの範囲の労働者を組合員として認めるかは、労働組合に決定権があります。
会社が労働組合員となれる労働者資格について介入すると違法になるので、してはなりません。
経費援助
経費援助は、企業側が労働組合に対して活動資金を援助する行為です。
資金を援助すると、会社による労働組合支配につながり、組合の弱体化につながるので不当労働行為として禁止されます。
労働組合の通信費や備品代などを負担すると経費援助とみなされるので、注意しましょう。
支配介入の具体例
l 労働組合員に対し「組合活動を続けている限り昇進は難しくなる」などと告げる
l 会社側による組合批判発言が度を超えている
5.黄犬契約
「黄犬契約」とは、企業が労働者を雇用する際に「労働組合に加入しない」と約束させたり、すでに労働組合に加入している労働者へ「労働組合から脱退する」と約束させたりする行為です。
このような行為をすると、労働者が自由に労働組合活動をできなくなるので、不当労働行為として禁止されます。
黄犬行為の具体例
l 従業員を雇用する際「労働組合に加入しません」「組合活動を行いません」という誓約書を書かせる
6.労働委員会への救済申立てを理由とする不利益取扱い
不当労働行為を受けた労働者は、労働委員会へ救済の申し立てができます。
労働者が救済の申し立てをしたことを理由に企業側が解雇などの不利益取り扱いをすると、労働者が救済される手段が失われるので不当労働行為として禁止されます。
7.不当労働行為を行った場合のペナルティ
企業が不当労働行為を行うと、以下のようなペナルティを受ける可能性があります。
7-1.労働委員会から救済命令をくだされる
労働者や労働組合が企業側から不当労働行為を受けると、都道府県の労働委員会へ審査の申立てができます。審査の結果、不当同労働行為が行われたと認定されると、救済命令がくだされます。救済命令が出ると、労働委員会から企業側へ一定の被害回復措置を行うよう命じられます。
なお「救済命令」に不服がある場合には「中央労働委員会」への再審査の申立てができますし、最終的には裁判所で取消訴訟を提起して最終判断を求めることが可能です。
審査手続きの流れ
STEP1 調査
労働慰謝料委員会が当事者双方の主張を確認し、調査を進めます。
STEP2 審問
公開の審問廷で審問が開かれます。
STEP3 合議(公益委員会議)
公益委員の合議によって事実認定が行われ、不当労働行為に該当するか判断されます。
STEP4 救済命令または棄却
不当労働行為とみなされると、労働委員会から企業側へ救済命令がくだされます。
不当労働行為が認められない場合、申立は棄却されます。
7-2.損害賠償、慰謝料請求
企業側が不当労働行為をすると、従業員や組合が損害賠償や慰謝料を請求してくる可能性があります。
数百万円を超える高額な賠償命令がくだされるケースもあり、企業に対する経済的な打撃が大きくなるでしょう。
7-3.不当労働行為に対する行政罰、刑事罰
不当労働行為を行っても、直接の刑事罰はありません。
ただし労働委員会による救済命令に違反すると、行政罰や罰則を適用されます。
行政罰は行政的なペナルティであり、前科はつきません。
一方罰則は刑事的なペナルティであり、前科がつきます。両者は大きく性格を異にするので、混同しないようにしましょう。
救済命令違反の行政罰、罰則には以下の2種類があります。
救済命令が労働委員会の手続きで確定した場合の行政罰
労働委員会から救済命令が出て、企業が取消訴訟を提起せずに確定した場合、命令に従わなかった雇用者には「50万円以下の過料」が科される可能性があります。
過料は行政罰であり、前科はつきません。
裁判所の判決が確定した場合の刑事罰
企業側が救済命令の取消訴訟を起こしたけれども裁判所が認めず救済命令が確定した場合、命令に従わなければ企業には刑事罰が科されます。
罰則の内容は「1年以下の禁固もしくは100万円以下の罰金刑」となっており、この場合には前科がつきます。
まとめ
企業が労働組合から団体交渉を申し入れられた場合には、不当に拒否してはなりません。労働組合員による組合活動へも一定の配慮が必要です。ただし労働組合活動であればどういったものでも認めるべきという意味ではありません。
どこまでが不当労働行為となりどこからが認められるのかは、素人では判断が困難でしょう。自己判断すると不当労働行為とみなされる危険が生じるので、迷われたら弁護士までご相談ください。