解雇前に退職勧奨すべき理由と進め方

ーーー本記事のポイントーーー

①退職勧奨とは

②なぜ解雇前に退職勧奨すべきなのか

③退職勧奨の限界

④退職勧奨が違法となるケースの具体例

⑤退職勧奨の進め方について

⑥退職勧奨する際の注意点について

⑦従業員が退職勧奨に応じない場合には優遇措置を提案する

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問題社員を辞めさせたい場合、いきなり解雇するより「退職勧奨」を行うようお勧めします。

退職勧奨が成功して従業員が自主的に退職すると、後に「不当解雇」と主張されるトラブルを防げるからです。

ただし退職勧奨も方法を間違えると「違法」と判断されて無効になる可能性があるため、正しい進め方を把握して適正な方法で進めましょう。

以下では解雇前に退職勧奨すべき理由や適切な進め方を弁護士が解説します。

1.退職勧奨とは

退職勧奨とは、雇用主が従業員へ自主的に退職するよう勧めることです。

対象従業員が退職に合意すれば、退職届を提出させて会社を辞めさせることができます。

ただし退職勧奨はあくまで「退職を勧める」だけで強制はできないので、従業員側が納得しなければ辞めさせることはできません。

勤務態度不良や成績が悪い、ハラスメント行為を続けるなどの問題社員がいて辞めさせたい場合などには、解雇前に退職勧奨を検討しましょう。

2.解雇前に退職勧奨すべき理由

解雇前に退職勧奨すべき理由は以下のとおりです。

2-1.解雇と退職勧奨の違い

解雇は雇用者が従業員に対し、一方的に労働契約を終わらせることです。

解雇には退職勧奨と違って従業員の同意は不要ですが、不当解雇となるケースが少なくありません。法律上、労働者は強く保護されており雇用者側が解雇できるケースは極めて限定されているからです。

労働契約法により、「解雇の客観的合理的理由」と「社会的相当性」の要件を満たさねば解雇が認められません。不当解雇になると解雇の効果が発生せず、従業員の地位が残ったままになり、解雇通知後の未払い賃金や慰謝料などを請求されるリスクも発生します。

2-2.退職勧奨は解雇よりもリスクが低い

退職勧奨であれば従業員が自主的に退職するので、基本的に不当解雇の問題は発生しません。

企業にとっては退職勧奨によって従業員に自主的に退職してもらった方が低リスクで安全といえます。

2-3.退職勧奨に失敗した後に解雇してもかまわない

解雇より退職勧奨を先にすべき理由の2つ目は、退職勧奨に失敗した後で解雇しても遅くはないことです。

退職勧奨をしても従業員が納得しない場合、最終手段として解雇ができます。

一方、解雇を先にしてしまったら退職勧奨するチャンスは失われます。

そこで先に安全な退職勧奨を行い、失敗した時点で解雇を検討すれば十分といえます。

以上のような理由から、よほど明らかな懲戒解雇事由がある場合などをのぞいて、解雇前に退職勧奨を行うようおすすめしています。

3.退職勧奨の限界

退職勧奨は万能ではありません。

退職するかどうかは従業員が自由意志にもとづいて決定すべき事項です。会社が過剰な干渉によって自由な意思決定を妨害すると、退職勧奨が違法となってしまう可能性があり、注意しなければなりません。

つまり企業が退職を強要すると、退職勧奨が違法となり、従業員から退職の無効を主張されたり慰謝料をはじめとした損害賠償請求をされたりするリスクが発生するのです。

退職勧奨には解雇ほどの厳しい制約はありませんが、限度を超えると違法・無効となってしまうので、慎重に進めましょう。

4.退職勧奨が違法となるケースの具体例

退職勧奨が違法と判断されやすいのは、以下のような方法をとった場合です。

l  退職勧奨を繰り返し、執拗に行う

l  従業員が明確に退職を断っているにもかかわらず退職勧奨をやめない

l  1日に何度も対象従業員を呼び出したり長時間の面談を頻繁に行ったりしてプレッシャーをかける

l  名誉を害する言葉を投げかける          

l  他の従業員の前でことさらに叱りつける

l  机をける、大声で怒鳴るなどの暴力的な言動

l  退職に同意するまで室内に拘束する

l  過剰な仕事を押し付ける、あるいは仕事を奪ってプレッシャーをかける

l  「退職しないなら給与をカットする」などと脅す

l  懲戒事由がないにもかかわらず「退職しなければ懲戒解雇する」と脅す

l  不必要な配置転換や出向、転勤命令を出して退職に追い込む    

上記は一例です。問題のある退職勧奨を行わないよう、くれぐれもご注意ください。

5.退職勧奨の進め方

退職勧奨は以下の手順で進めましょう。

STEP1 退職勧奨の方針を固める

まずは退職勧奨の方針を固めるところから始めましょう。社長の一存ではなく幹部や本人の直属の上司からも意見を聴いて、退職勧奨を進めていく計画を共有します。

退職勧奨時には、従業員から「なぜ退職を勧めるのか?」と尋ねられる可能性があるので、説得するための理由をまとめておきましょう。

STEP2 従業員に退職してほしい希望を伝える

次に対象の従業員を呼び出し、会社側としては退職してもらいたいと考えていることを伝えます。

その際、正当な理由を提示しなければ従業員は納得し難いでしょう。事前に準備しておいた理由を告げて、退職に応じるよう説得してみてください。

STEP3 退職を検討させる

退職勧奨を行う場合、頻度や時間、態様に注意が必要です。

あまりに頻繁、長時間にわたって勧奨を行うと、違法と判断される可能性が高くなってしまいます。

たとえば1回に2時間以上説得し続けたり、従業員が明確に退職を拒否しているのにしつこく拘束したりすると違法になるリスクがあります。

数人の上司が本人を取り囲んで説得したり、退職届に署名押印するまで部屋から出さなかったりする対応もしてはなりません。

退職勧奨に応じるかどうかはあくまで従業員の自由であることを忘れずに対応を進めましょう。

STEP4 退職時期や金銭面の処遇を取り決める

従業員が退職に同意したら、具体的な退職時期や退職金などの金銭面について取り決めましょう。

STEP5 退職勧奨同意書、退職届を提出させる

退職勧奨が成功したら、従業員に退職勧奨同意書あるいは退職届を作成させましょう。

退職勧奨同意書とは、従業員が退職勧奨に応じた事実を証明する書面です。従業員が自主的に作成した退職勧奨同意書や退職届があると、後に従業員が「退職勧奨に同意した覚えはない」といっても通用しにくくなります。

未払賃金や退職金等、退職理由、競業避止義務などについても盛り込んでおくと、より安全を期することができます。日付を入れて従業員に署名押印させて提出させ、後日トラブルになったときに備えて厳重に保管しましょう。

6.退職勧奨する際の注意点

退職勧奨する際には、後に違法と判断されないよう以下の点に注意しましょう。

6-1.脅迫や強要をしない

面談時に「給与をカットするぞ」「(懲戒事由がないのに)自主退職しないなら懲戒解雇するぞ、その場合には退職金も出さない」などと脅迫してはなりません。

退職強要と判断されるリスクが高くなります。

6-2.面談の回数や頻度は相当な範囲内とする

面談の回数や頻度が多すぎると「退職強要」と判断される可能性が高くなるので、相当な限度に抑えましょう。

6-3.即日回答を求めない

即日回答させると、従業員に考える余裕がなくなって真意と異なる答えをする可能性があります。

後に退職意思を翻されるとトラブルになるので、即日ではなく期間を区切って回答を求めましょう。

6-4.拒否されたらしつこく勧めない

従業員が退職勧奨を明確に拒否した場合、しつこく勧めてはなりません。拒否した理由によって退職条件を加えて再提案するなど、方針を練り直して新たな対応をとりましょう。

7.従業員が退職勧奨に応じない場合には優遇措置を提案する

従業員が退職勧奨に応じない場合には、優遇措置を提案してみましょう。

退職金の割増や特別手当を提示したり、就職先のあっせんを提案してみたりすると、従業員がスムーズに退職を受け入れる場合がよくあります。

どうしても拒否されるなら解雇を検討

優遇措置を提示しても従業員が退職を拒否する場合、最終手段として解雇も視野に入ってきます。

解雇には法律上の厳しい制限があるので、要件を満たすかどうか法的観点から慎重に検討しましょう。

埼玉の弁護士法人フォレストでは、企業側の労務対策サポートに力を入れて取り組んでいます。問題社員を円満退職させたい方がおられましたらお気軽にご相談ください。

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