精神疾患が疑われる社員に対する対策

事案

社員Xは、責任感を持って真面目に仕事をしてくれる従業員の1人です。

ところが、ここ最近、Xは、今まで1度も無断欠勤することはなかったにもかかわらず無断で欠勤したり、業務中急に大声を上げたり、独り言を繰り返したりしています。

最初は、「単に業務に追われパニックになっているだけだろう」と思い、様子を見ていたのですが、あまりにもそのような言動が続き、他の従業員の業務にも影響が出始めたため、職場の雰囲気も険悪な雰囲気となりつつあります。

このような社員に対して、どのような対処法があるでしょうか?

対処方法

このような従業員に対する対処方法としては、①異常な言動が精神疾患によるものであるか明らかにすること、②精神疾患であった場合には休職もしくは普通解雇を検討すること、③精神疾患でなかった場合には懲戒処分を検討することが考えられます。

①精神疾患であるかの判定について

まず、従業員による異常な言動が、精神疾患であるかを見極める必要があります。

無断欠勤は単なる怠けであったり、異常と思われる言動であっても単に疲れているだけであったり、業務過多による精神的ストレスが原因であったりもするため、医学的見地による判断が必要不可欠であるためです。また、仮に精神疾患であったとしても、適切な治療をすれば、Xのような会社にとって必要な人材を失うことはなくなりますし、Xも不用意に解雇されることはなくなり、会社にとっても従業員にとっても利益となるのです。

従業員が精神疾患であるかは、医療機関の受診によって判断することになりますが、受診に当たっては従業員と面談の上任意の受診を促すことがベストであると考えられます。その際には、その従業員が精神疾患であると決めつけた促しはかえって受診拒否を招くので、「最近お疲れのようですが、大丈夫ですか?一度産業医に相談してみてはどうですか?」といったように、任意による受診を勧めることがよいでしょう。

なお、従業員が任意に受診しない場合、会社は、合理的かつ相当な理由があれば、従業員に対して、業務命令として受診を命じる命令を発することができると考えられます。

②精神疾患であることが明らかとなった場合

異常な言動をする従業員が精神疾患であった場合、会社としては、その従業員を休職させるという方法があります。しかし、休職制度に関しては、法規制はないため、そもそも制度を設けるか・どのような内容にするかは、会社ごとに異なります。

一般的に見られる休職制度として、私傷病休職制度というものがあります。

これは、解雇の猶予をした休職制度です。具体的には、業務以外の病気やケガによって就業が困難になった場合、直ちに解雇するのではなく、一定期間の欠勤を前提として一定期間労務を免除するもので、その間に回復・治癒すれば復職させ、回復・治癒していないときには自然退職となるというものです。

したがって、その会社に休職制度が設けられているかがポイントとなります。

■休職制度が設けられている場合

この場合には、会社は、従業員に対して、休職命令を発することが考えられます。

休職命令を発することができるかは、就業規則によりますが、一般的には、「従業員が従事している業務を十全になし得るか、従業員が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務提供ができ、かつ、その提供を申し出ているならば、その業務への配転可能性も検討した上で」判断されることとなります。

しかし、休職は、従業員にとって、解雇が猶予され、賃金が支払われないといった不利益が生じるため、休職命令を発するには慎重な判断が求められます。

休職命令を発することができるかを判断するにあたって、従業員が精神疾患に罹患していても現在の業務が遂行可能かを判断することになります。

この判断は、主治医の意見を参考に判断されますが、従業員本人が他の業務への配転を希望している場合は、その可否も含めて判断することとなります。また、場合によっては、「時間外労働・休日労働は禁止する」などといった一定の条件が付すことで業務遂行可能性を判断することもあります。

■休職制度が設けられていない場合

この場合には、従業員を休職させることができないため、解雇を検討することとなりますが、精神疾患が業務に起因する場合には労働基準法19条1項は、精神疾患が業務に起因する場合には、原則として、一定期間その従業員を解雇することができないなどの一定の解雇規制がありますので、精神疾患の原因を把握しておくことが重要となります。

その他には、解雇するのではなく退職勧告をしたり、配転という方法もあります。

退職勧告の場合、従業員による退職の意思表示は、従業員の真意に基づくものでなければなりません。特に精神疾患に罹患している従業員は、精神面で不安定であるため、体調が良い時に意思を確認する・主治医や家族の立ち会いを認めるなど、慎重な確認が求められます。

配転の場合、従業員の状況に合わせて業務に従事させることができるため、柔軟な対応を望むことができます。また、部署が変わることによって、精神的な負担が軽減したり、職場復帰の可能性が期待できます。

③精神疾患が原因ではなかった場合

この場合には、具体的な言動を踏まえて、通常通り、就業規則に定める懲戒事由に該当するか検討の上、懲戒処分を検討することとなります。

総括

従業員も人間である以上、精神的に体調を崩したりすることは十分にあり得ます。また、従業員は企業の歯車としての役割を担っているため、企業にとって重要な財産であると言えます。それが企業にとって重要な役職を担う従業員であればなおさらです。

したがって、企業側としての対策としては、簡単に懲戒解雇をするのではなく、可能な限り休職を認めたり配転を認めるといった柔軟な対応を採ることが、従業員にとっても企業にとっても最良な対策であるといえるでしょう。

なお、精神疾患が疑われる社員に対する対処方法の具体策・運用など、ご不明な点がございましたら、弊所までお気軽にご相談ください。

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