パワハラ、セクハラで企業に法的責任が発生するケースについて
ーーー本記事のポイントーーー
①社内でパワハラやセクハラが発生した場合のリスク
②パワハラ、セクハラで企業に生じる法的な責任
③企業に求められるパワハラ、セクハラ対策とは
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社内でパワハラやセクハラなどのハラスメントトラブルが発生すると、直接の加害者にとどまらず企業側にも責任が及ぶ可能性があります。
会社には労働者の職場環境を整える義務があるからです。また会社は加害者である従業員の使用者なので、「使用者責任」が発生するケースも多々あります。
「ハラスメントは従業員同士の問題」と片付けることはできません。
今回はパワハラやセクハラで企業に発生するリスクや責任について、弁護士が解説します。
1.社内でパワハラやセクハラが発生した場合のリスク
社内でパワハラやセクハラが発生したら、企業には以下のようなリスクが発生します。
1-1.従業員のモチベーション低下
勤務先でパワハラやセクハラが横行していると、従業員のモチベーションが低下するでしょう。全体的に生産性が落ち込み、売上低下などのマイナス要因につながるケースも少なくありません。
1-2.離職率が上がる
一般的な労働者の感覚として、パワハラやセクハラが起こっても対応してくれない会社でははたらきたくないものです。
自社内でハラスメントが発生しているにもかかわらず放置していると、離職率が高まって優秀な人材を失ってしまうリスクも発生します。
1-3.社会的な信用低下
最近では、ネット上に勤務先のネガティブな情報を投稿する人が増えています。
パワハラやセクハラが起こっても対応しない「ブラック企業」としても評判が広がると、社会的な信用が低下して新規採用や売上などに悪影響が及ぶ可能性も懸念されるでしょう。
1-4.被害者から損害賠償請求される
雇用者は労働者に対し、適切な職場環境を提供すべき法的な義務を負います。
パワハラやセクハラを放置していると、被害者である従業員から損害賠償請求されるリスクも発生します。
1-5.法律違反
日本ではパワハラやセクハラなどのハラスメント行為を防止するため、企業にさまざまな義務を課す法律が規定されています。
いわゆる「パワハラ防止法」や「男女雇用機会均等法」が典型例で、現在では中小企業を含めすべての企業へと適用されます。
パワハラやセクハラに対して適切な措置を講じないと、違法状態となってしまうリスクもあるのでくれぐれも注意しましょう。
社内のハラスメント問題を放置すると企業側にも多大な悪影響が及びます。法律の規定に従ってパワハラやセクハラを予防し、万一発生してしまった場合には法的な責任を問われないように対処しましょう。
2.パワハラ、セクハラで企業に生じる法的な責任
社内でパワハラやセクハラが発生すると企業側にどういった責任が及ぶのか、法的な観点からご説明します。
2-1.職場環境配慮義務違反
雇用者は被用者との労働契約にもとづき「職場環境に配慮すべき義務」を負います。
これを「職場環境配慮義務」といいます。債務不履行責任の一種です。
社内でハラスメント被害が生じているにもかかわらず放置していると、職場環境配慮義務違反が成立する可能性が濃厚となります。雇用者が適切に職場環境に配慮しなかったためにパワハラやセクハラの被害者となった従業員が精神的苦痛やその他の被害を受けると、慰謝料などの損害賠償請求をされるリスクが発生します。
経営者自身がセクハラやパワハラ行動を行う必要はなく、従業員同士の問題を放置しているだけで職場環境配慮義務違反となるのでくれぐれも注意しましょう。
2-2.不法行為責任
経営者が直接従業員へセクハラやパワハラ行為をした場合、経営者には「不法行為責任」が発生します。不法行為責任とは、故意や過失によって他人へ損害を与えた場合の責任です。
セクハラやパワハラは違法行為なので、経営者が加害者となった場合には当然、被害者から損害賠償請求をされる可能性があるのです。
小さな事業所で経営者と従業員の関係が密な職場では特に発生しやすいトラブルなので、くれぐれも問題行動をしないよう注意しましょう。
2-3.使用者責任
経営者自身がハラスメントを行わなくても、従業員同士のハラスメント問題によって企業が「使用者責任」を負う可能性があります。
使用者責任とは、被用者が他人に対して不法行為を行ったときに雇用者が負う責任です。
雇用者は被用者を使って利益を得ているので、被用者が他人へ与えた損害についても責任を負うのが公平、という考え方にもとづきます。
セクハラやパワハラによって使用者責任が発生した場合にも、被害者が会社側へ直接損害賠償請求してくる可能性があります。
以上のように、社内でのセクハラやパワハラ被害を放置していると、会社が被害者から損害賠償請求をされる法的なリスクが発生します。
現実に会社側へ数百万円単位の賠償金支払い命令がくだされた裁判例も少なくありません。
企業としては、社内のセクハラやパワハラ被害を可能な限り防止し、万一発生した場合には法律に従って適切に処理しましょう。
3.企業に求められるパワハラ、セクハラ対策とは
パワハラ防止法や男女雇用機会均等法により、企業には以下のようなハラスメント対策をとるよう求められます。
3-1.経営者が率先してハラスメントを許さない態度をとる
まずは経営者が率先して「パワハラやセクハラを許さない」という態度をとり、従業員全体へ示しましょう。
従業員に対し、ハラスメントを発生させてはならないと意識づけていきます。
3-2.従業員への周知、啓蒙
どういった行動がパワハラ、セクハラになるのか、なぜハラスメント行動をとってはいけないのかなど、従業員へ周知して啓蒙しましょう。
単に「やってはいけない」というだけでは具体的にどういった行動が禁止されるのかイメージできない人も多いためです。
セミナーを開いたり資料を配布したりしてもよいでしょう。
弁護士が資料作りやセミナー行使を担当することも可能です。
3-3.相談窓口の設置
セクハラやパワハラについては、従業員が気軽に利用できる相談窓口を用意しましょう。
セクハラやパワハラなどのハラスメントに関する相談窓口を一本化してもかまいません。
相談担当者にはきちんと教育を行い、適切な対応をとれるように準備しておくべきです。
事前に相談対応マニュアルを作成し、責任者を置くとよいでしょう。弁護士がマニュアルや社内規定作りのサポートも行えます。
3-4.相談を受けたときの適切な対応
実際に「パワハラやセクハラ被害を受けた」という相談があったら、すぐに適切な対応を取らねばなりません。
まずは被害者や関係者などから聞き取りを行い、本当にハラスメント被害があったといえるのか確認しましょう。
そのとき、関係者のプライバシーにも十分配慮すべきです。また相談したことや調査に協力したことで不利益を受けるような結果があってはなりません。
被害者や協力者の立場を守りましょう。
3-5.加害者への措置
実際にハラスメント被害が起こったのであれば、加害者へは懲戒処分を検討すべきでしょう。
ただ必ずしも懲戒解雇すべきとは限りません。ハラスメント行為の違法性の強さと懲戒解雇のバランスがとれていない場合、懲戒解雇が無効となってしまう可能性もあります。
またハラスメント被害が実際には発生していなかった場合、加害者とされた従業員に不利益な取り扱いをしてはなりません。
3-6.再発防止措置
相談への対応が済んだら、再発防止措置をとりましょう。実際にはハラスメント被害が発生していなかったケースでも、なぜ被害者が相談せざるをえない状況となったのかを確認し、再発防止措置をとるべきです。
以上のように、法律の要請に従って適切な行動をとっていれば、企業側がハラスメント関係で責任追及されるリスクは大きく軽減されます。
さいたまの法律事務所フォレストではハラスメント対策のアドバイスや実際に賠償請求を受けてしまった場合の対応に力を入れて取り組んでいます。
各種社内規定、就業規則の改定、セミナー講師なども承りますので、まずはお気軽にご相談ください。