懲戒解雇が認められる要件と進め方、退職金や解雇予告手当を払わなくてよい条件とは
ーーー本記事のポイントーーー
①そもそも懲戒解雇とは
②懲戒解雇が認められる要件について
③懲戒解雇できるケースの具体例
④懲戒解雇の進め方
⑤懲戒解雇で退職金を不支給にできる場合
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重大な違反行為や問題行動をした従業員に対しては「懲戒解雇」ができます。
懲戒解雇すると退職金を不支給にできる可能性がありますし、解雇予告手当を払わなくてよいケースもあります。
ただし懲戒解雇は常に認められるものではなく、対応を誤ると「不当解雇」になってしまいます。
今回は懲戒解雇が認められる要件や進め方、退職金を不支給にできるケースについて弁護士が解説します。問題社員の解雇を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。
1.そもそも懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、重大な問題行動を起こした従業員に対し、ペナルティとして行う解雇です。
就業規則に違反する行為をした従業員に対し、企業は「懲戒処分」を行うことができます。懲戒処分には軽いものから重いものまでさまざまな方法があり、中でももっとも重い処分が懲戒解雇です。
著しい非違行為によって企業秩序を乱したため、もはや雇用契約を維持できない場合に、やむをえず懲戒解雇を実施できると考えましょう。
2.懲戒解雇が認められる要件
懲戒解雇が認められるには、以下の要件を満たさねばなりません。
2-1.就業規則に懲戒についての規定がある
そもそも就業規則に懲戒についての規定がなければ懲戒解雇はできません。
どういった行動をとると懲戒解雇される可能性があるのか、あらかじめ定めておく必要があります。問題行動が発覚してから、後で懲戒事由を追加することはできません。
2-2.懲戒解雇が適正な手続きによって行われる
懲戒解雇するときには、適正な手続きに沿って行わねばなりません。
基本的には、対象となる従業員に弁明の機会を与える必要があります。弁明をさせずに解雇してしまったら、不当解雇となる可能性が高いので注意しましょう。
その他にも就業規則や労働協約において別途の手続きを要する場合には、定められた手続きを実践しなければなりません。
2-3.従業員による問題行動が、懲戒解雇せざるを得ないほど重大なものである
懲戒解雇する際にも、労働契約法は適用されます。解雇せざるを得ない客観的合理的理由と社会的相当性がなければ懲戒解雇できません。
具体的には、従業員による問題行動が解雇せざるを得ない重大なものであることが必要です。
問題行動の程度が軽いにもかかわらず懲戒解雇を選択すると、「懲戒権の濫用」となって解雇が無効になる可能性があります。
3.懲戒解雇できるケースの具体例
l 会社のお金や商品を横領した
l 顧客に暴力を振るってケガをさせた
l 概ね2週間以上の無断欠勤が続いている
l 刑事事件で有罪判決を受け、企業の信用を大きく貶めた
l 悪質なセクハラやパワハラ行為を行い、改善の余地がない
l 採用の前提となる重大な経歴詐称をした
上記のようなケースであれば、懲戒解雇が有効となる可能性が高いでしょう。
懲戒解雇が難しいケース
一方、以下のような場合には基本的に懲戒解雇は困難です。
l 病気で仕事ができない
l 能力不足や成績不良
l 協調性が欠如している
l 遅刻や早退が多少多め
4.懲戒解雇の進め方
懲戒解雇を実施する際には、以下の手順で進めましょう。
STEP1 従業員による問題行為を調査
まずは対象従業員が具体的にどういった問題行動をとったのか、事実関係を調査して確認しましょう。確認せずに懲戒解雇してしまうと、不当解雇となるリスクが高まります。
STEP2 懲戒解雇の事由に該当するか検討
事実確認ができたら、懲戒解雇の理由があるのか検討しましょう。
就業規則の懲戒事由に該当する場合でも、必ずしも解雇できるとは限りません。問題行動の程度が低いのに懲戒解雇をすると、懲戒権の濫用とされて解雇が無効になる可能性もあります。
STEP3 従業員に弁明の機会を与える
懲戒解雇を行うには、対象従業員に弁明の機会を与えなければなりません。
本人を呼び出して、問題行動を認めるのか、現在の考えなどを含めて本人の言い分を確認しましょう。
後に本人から労働審判や訴訟を起こされると、企業側が弁明の機会を与えたかどうかが問題になる可能性があります。証拠を残すため、書面や録音などによって記録しましょう。
STEP4 労働組合の意見を聞く
社内に労働組合が存在する場合、労働協約で「懲戒解雇する場合には会社は労働組合の意見を聞かねばならない」と定められている可能性があります。
その場合、懲戒解雇の手続きの一環として、労働組合の意見聴取をしなければなりません。
STEP5 懲戒委員会を開催
会社によっては就業規則に「懲戒解雇をする場合には懲戒委員会を開く」と定められているケースもあります。委員会の名称は「懲罰委員会」などとなっている会社もあります。
名称はどうあれ委員会の開催を求められる場合、手続きの一環として実践しなければなりません。
STEP6 解雇予告手当の除外認定を受ける
企業側が従業員を解雇するには、基本的に30日前に解雇予告を行うか、30日分の解雇予告手当を支給する必要があります。
ただし懲戒解雇の場合、事前に労働基準監督署で解雇予告手当の除外認定を受ければ、解雇予告手当を払わなくても解雇できます。
解雇予告手当をせずに即日解雇したい場合には、早めに労基署へ解雇予告手当の除外認定を申請しましょう。認定が出るまでに数か月かかる場合もあるので、早めに手続を行うようおすすめします。
STEP7 懲戒解雇通知書を送る
懲戒解雇の準備が整ったら、従業員へ交付する懲戒解雇の通知書を作成して本人へ送付しましょう。
STEP8 労働保険や社会保険の手続き
従業員を退職させたら雇用保険や社会保険の資格喪失手続きを行わねばなりません。
雇用保険についてはハローワーク、社会保険については年金事務所へ資格喪失の届出をしましょう。従業員本人に対し、ハローワークから返送された「離職票」を交付する必要もあります。
5.懲戒解雇で退職金を不支給にできる場合
会社に退職金規程がある場合、従業員の退職時には規定に沿った退職金を支給しなければならないのが原則です。
ただし懲戒解雇する場合には退職金の一部や全部を不支給にできる可能性があります。
懲戒解雇時に退職金を不支給にするには、以下の条件を満たさねばなりません。
5-1.就業規則や退職金規程に減額や不支給の規定がある
まず、就業規則や退職金規程において「懲戒解雇された者には退職金の全部又は一部を支給しないことがある」という趣旨の定めが必要です。
減額や不支給についての規定がないと、社内で重大な問題を起こして懲戒解雇された従業員に対しても全額の退職金を交付しなければなりません。
5-2.これまでの功労を無にするような重大な背信行為がある
次に従業員の問題行動の程度が問題になります。
従業員による背信行為が重大で、これまでの功労を無にする程度のものであれば退職金の減額や不支給が認められます。
一方、背信行為の程度が小さい場合には、就業規則や退職金規程に定めがあっても減額、不支給が認められません。
このように「背信性の程度」が問題になるのは、退職金には「在職中の功労に報いる性質」があるからです。功労を無にするほどの背信性があると、退職金支給の根拠が失われるので減額や不支給にできます。
ただしどの程度の減額が認められるのか、あるいは全額不支給にできるのかについては個別状況に応じて判断しなければなりません。自己判断で全額不支給にすると元従業員が未払い退職金を請求してきてトラブルになるリスクが高まるので、労働問題に詳しい弁護士へ相談してから対応を決定しましょう。
法律事務所フォレストでは企業側の労働問題に詳しい弁護士がご相談や労働者、労働組合との交渉、訴訟などに対応させていただきます。解雇や残業代、ハラスメント対策などでお困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。