~在留資格「介護」留学生受入れ時の奨学金スキームについて~

第1 在留資格「介護」ができました。

平成29年9月に入管法が改正され、在留資格として「介護」が創設されました。

留学生として入国し、介護福祉士養成施設(2年以上)を卒業後、介護福祉士資格を取得した外国人の方は、介護福祉士として国内で就労することが可能となりました。

国内の社会福祉法人様においては、外国人留学生を確保すべく、留学生の学費や就職先の決定など様々なサポートをすることをご検討されているとは思います。

その中でも奨学金制度を用いるスキームについては、労働の確保と強制との関係があり、十分な検討が必要です。

平成30年3月付けで、大阪府社会福祉審議会介護・福祉人材確保等検討専門部会が、「大阪府版 在留資格「介護」による外国人留学生受入れガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)として、行政からの指針も出されており、これも参考に、以下、外国人留学生への奨学金支給において注意するべき点の概略をお伝えいたします。

 

第2 社会福祉法人による奨学金支給の可否について

そもそも、社会福祉法人(以下、「社福」といいます。)が外国人留学生のために奨学金支弁事業を行うことはできるのかについて、社福が奨学金支弁事業をすることはできると考えます。

奨学金支弁事業は、公益を目的とする事業であって、社会福祉事業以外の事業である「公益事業」に当たり、経営する社会福祉事業に支障がない限り行うことができると考えられています(社会福祉法26条1項)。

実際にも「公益事業」に当たるとして、全国の様々な社福が、奨学金支弁事業を行っている例もあり、また、ガイドラインでも、社福による奨学金支弁事業が行えることを前提に、様々な問題点について説明がなされています。

 

第3 奨学金の返済スキームについて

では、社福による留学生に対する奨学金事業の実施に当たり、どのような問題が生じるのでしょうか?

それは、第1でも述べた通り、労働の確保と強制のバランスという問題です。

まず、社福は、外国人留学生に奨学金を支給する代わりに、自社施設で働いてもらいたいと思うのが自然でしょう。

しかし、外国人留学生が自社施設に就職した後、早期退職する可能性は十分ありますし、そういった場合、労働の確保を失うばかりか、奨学金の返済もなされないというリスクを負うこととなります。

そのため、社福としては、外国人留学生に仕事を辞めさせない、つまり、「仕事を辞めたら、奨学金を全額返還してもらう」といった労働を強制させるような方法を取らざるを得ない状況も生じます。ここから、「労働の確保と強制のバランス」が問題となるのです。

 

では、具体的にどのようなスキームによる奨学金支弁事業が考えられるでしょうか?

 

①卒業後一定期間自社施設で就労した場合、奨学金返還を免除するスキーム

まず、1つ目の方法としては、社福が奨学金を支給して、卒業後一定期間、自社施設で就労をした場合に奨学金の返還を免除するというものです。

この方法は、奨学金の返済について、外国人留学生に自社施設での労働を条件とするものですが、労働をすれば奨学金の返済が免除されるという利益が生じるため、外国人留学生にとってインセンティブが生じます。

 

②就労予定期間中に退職した場合に一括全額返済を求めるスキーム

もう1つの方法としては、奨学金を支給し、就職後に退職した場合、奨学金の一括全額返済を求めるというものです。

これは、自社施設で労働し続けなければ奨学金の一括全額返済を求めるので、外国人留学生にとって「仕事を辞められない…」といった労働の強制が強く働くことになります。

 

第4 奨学金の返済スキームの問題点について

先ほど、「労働の確保と強制のバランス」が問題となると言いましたが、実は先の②の方法が、労働基準法16条違反になるおそれがあるのです。

 

労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定しており、その趣旨は、このような契約をすることによって、労働者が労働関係の継続を強いられることを防止する点にあります。

②の方法は、自社施設の退職を条件に奨学金の一括全額返済を求める方法なので、外国人留学生としては、一括全額返済を求められても、返済困難な状態となることが通常です。そのため、外国人留学生は、そのような事態を避けるため、当該施設で働かざるを得なくなるのです。

このようなシステムが、外国人留学生に労働関係の継続を強制させる点で、労働基準法16条に違反するのではないかという点が問題となるのです。

 

ここで、どのような場合が16条に違反するかについて、判例は、「単に契約条項の定め方だけではなく、16条の趣旨を踏まえて当該海外留学の実態等を考慮し、当該海外留学が業務性を有しその費用を会社が負担すべきものか、当該合意が労働者の自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要するものかどうかを判断すべきである。」としています(東京地裁平成14年4月16日判決)。

②の方法は、そもそも奨学金の一括全額返済自体が外国人留学生にとって過酷な負担を課すので、外国人留学生としては、「奨学金を返済させられないために働かなければ…」と労働することを強制させるものであるため、労働基準法16条違反になるおそれがあります。

 

第5 ガイドラインによるスキームについて

では、どのようなスキームが労働基準法16条に違反しないのでしょうか?

ここで、ガイドラインでは、上記の②の方法は、労働基準法16条に違反するおそれが極めて高いとしています。

そこで、労働基準法16条に違反しないスキームとして、上記①の方法をもう少し具体化して、労働契約と奨学金貸与契約とを明確に切り分け、その外国人留学生がその他の介護施設で働く自由や働いている施設を退職する自由を妨げない前提で、強制力を伴わせる形で働かせない制度構築が必要だとしています。

例えば、(1)先ほど述べた通り、自社施設で働いた場合、一定期間の勤務を条件として奨学金返還免除制度を整備したり、(2)その他には、仮に自社施設で働かない場合、合理的な返済ルールを整備しておくことが挙げられています。

いずれにしても、働くことを強制させない形を構築すること、すなわち、卒業後自社施設で働くことにインセンティブを持たせる形を構築することが求められます。

 

第6 総括

現代社会は、高齢化または高齢社会が進んでおり、介護福祉事業では人材不足が深刻化しています。そのため、社福としては、自己の法人で働いてもらうべく、留学生の修学支援をして、人材確保をしたいと考えるのは当然だと思われます。

そして、社福が人材確保をするため奨学金を支弁するという取り組みは、社福において人材確保ができる一方で、外国人留学生においては、学費を支弁できるだけでなく、卒業後の就労先を確保できるという点で、WinWinな取り組みであるといえるでしょう。

もっとも、上記で述べた通り、スキームの構築の仕方によっては、労働基準法16条に違反する恐れがあるため、慎重な判断が必要です。

在留資格「介護」による外国人留学生受入れについては、今後より増えていくことが予想されると思われますが、いまだ未開拓な部分が多く、今回取り上げた問題以外にも様々な問題点があります。

もし、在留資格「介護」による外国人留学生受入れについて、ご不明点・ご質問ございましたら、お気軽に弊所までお問い合わせください。

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